〇〇の四面体〜建築の視点から〜

近ごろ、「料理の四面体」という本を読みました。

 

料理の要素を、水と空気と油の3要素+どの程度火を加えていくかという4つの視点から料理の原理を探られていて、料理がシームレスにとらえることができとても興味深い内容でした。

料理の本って大体がレシピ本になっているので、知識が断片的になってしまうんですね。豚の生姜焼きと、ステーキなんて、調理法としてはとても近い食べ物なのに、それぞれのレシピで紹介されているから、別物だととらえてしまう。

 


そもそも世界のモノゴトは基本的に連続的につながっているはずで、それを理解しやすくするために分類して細分化しているわけです。

実は原理としては繋がっているという前提を忘れないことが、モノゴトの理解を深めるのに必須なのだと改めて感じました。

 

 

 

この料理の四面体にインスパイアされまして、自分の仕事の四面体を考えてみたいと思いました。

仕事、例えば私自身は建築関係の仕事をしていますので、それにならって考えてみます。

まずベースとなる3要素として、「職人性」「ビジネス性」「学術性」の3要素に分けられないでしょうか。

 


職人性というのは言わずもがな、大工など各種職人に代表される分野です。自分の創意工夫によって、納得するまで自分で手を動かして作り込んでいくこと。

実際の仕事にはビジネスの側面はもちろんあるものの、お金に関係なく作業にのめり込んで納得するものに仕上げていくという部分は強いはずです。

また、それは設計でいうとアトリエ系の事務所に強く出る部分でしょう。

もっと小さなところでいうと、この資料を綺麗に作りたい、とかいう気持ちも必要合理的なものを超えた職人性と言えると思います。職人性があるからこそ、作られたモノに味が出て面白くなると思います。

 


ビジネス性については、簡単にいうとお金を稼ぐための側面です。不動産関係なんかは、ビジネス性がとても強い分野だと思います。建物をつくるにはお金が必要ですから、必然的にビジネス性は必要です。

設計や施工段階でも、コスト管理やグレード感を意識した仕事の仕方が重要になります。ハウスメーカーの住宅はそのあたりが徹底されているように見えます(私個人は業界のことは詳しく知りませんが)。

 


学術性は、大学などでの研究分野です。建築学生は多くが大学や各種学校を卒業しますが、そこでは実務ではなくアカデミックな内容を学びます。文化、哲学、科学、工学的な分野であり、特に電気設備構造では触れる機会も多いですが、意匠にせよアカデミックな文化的裏づけがないと、デザインに奥行きが出ないように思います。

 

 

 

これらの3要素ともう一つ設定したいのは、「前衛性」です。

 


巷にあふれる工法、材料で作った建物は、手をかけローコストで作ったとしても、側からみればありふれた建物になる可能性があります。

しかし、誰もみたことない形状のデザインで作り込むことは人をアッと言わせます。ザハの建築なんかいつも驚くものが多いし、隈さんのルーバーや安藤さんのRC打ち放しなんかはすでに個人のアイコンにもなっていますが、それは前衛性によるものだと思います。

 


またビジネス性からも、既存の法制度の新しい活用法、材料の流通などを工夫し、ローコストで合理的に建物を建てられたら、それは画期的なことです。建物の周りの街がさらに発展できれば、その建築のビジネスは社会にとって力を持つと言えます。それも前衛性と言っていいと考えます。

 


学術性についても、例えば過去の災害の避難行動統計に基づいたプランニングとか、新たな空調形式の発明、制振システムの開発などは前衛的と言えると思います。

 

 

 

建築は職人性とビジネス性と学術性、前衛性の中で揺れ動いていて、それぞれの分野の仕事によって形作られていると思います。

そういうとらえ方をすれば、建築の良し悪しの視点も少し変わってくる気がします。